東洋経済オンライン 2015年12月5日

マイナンバー制度導入のドタバタの裏で、この12月にひっそりと始まったもう一つの制度がある。労働者の心の状態を年1回調べる「ストレスチェック」だ。
「非常にたくさんの仕事をしなければならない」「へとへとだ」──。国が推奨する「職業性ストレス簡易調査票」は、57項目の質問に4段階で答える方式。労働者はウェブ上か紙で回答する。

従業員50人以上の事業所に義務づけ
その結果、高ストレス者と判定され、かつ本人が希望した場合には、産業医などの面接指導を受ける。必要に応じ、事業者が残業や休日出勤の削減などの措置を取る、という流れだ。
ストレスチェックは、労働安全衛生法の改正によって、従業員50人以上の事業所に対し全従業員への実施が義務づけられた。その狙いは、労働者が自分のストレス状態を知って早めに対処し、うつなどを予防することにある。
厚生労働省によると、自殺やうつによる経済的損失は、2009年で約2.7兆円。2014年の自殺者は2万5427人で、うち2227人が勤務問題を苦に命を絶った。職場におけるメンタルヘルスの改善が、喫緊の課題であることは間違いない。
ただこの制度は、実施方法の浸透も効果の検証も不十分なまま、走り出してしまった。事業者はストレスチェックを2016年11月末までに1回は実施する必要がある。厚労省が受検と結果の出力、集団分析などができるプログラムの無償配布を始めたのは、義務化を目前に控えた11月24日のこと。事業者が様子見を決め込むのも無理はない。

今回、事業者にはストレスチェックの実施が義務づけられたが、労働者に受検の義務はなく、全員が受けるとは限らない。回答内容は本人の同意なしに事業者に伝わることはないが、面接指導を受けるには、本人から事業者に申し出る必要がある。
高ストレス者であることを事業者に知られるとなれば、面接の申し出をためらう人も出てくるだろう。メンタルヘルス不調者問題に詳しい峰隆之弁護士は、「ストレスチェックはセルフケアの制度。ストレスを抱え込むタイプの人を救い出すものではない」と指摘している。

関連ビジネスも勃興
一方、以前から独自に従業員のストレスを診断し、職場環境の改善につなげている企業もある。帝人は2003年から毎年、職場ごとのストレスを調査。高リスクと判定された職場には、同僚によるサポートを増やすなどの具体的な目標を設定し、リスクを減らすことができたという。ストレスチェック制度も活用次第では、有効に機能する可能性を示唆する一例といえよう。
制度開始をビジネスチャンスととらえる企業も動きだしている。東京海上日動火災保険は、ある特約をセットした傷害保険などの加入企業を対象に、無料でストレスチェックからデータ保存までを請け負う。ほかにも職場への音楽配信、リラクゼーション機器の販売など、関連ビジネスが盛り上がりつつある。
国としては所期の目的を達成するために、認知度や制度上の不備を是正していく必要がありそうだ。